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社長の経営日誌

孤高の天才 社長の経営日誌 田宮社長が好き勝手に織りなす独白です
 FILE No.459 2016.2.6

「 ミスターX騒動 」

1976年からスタートしたアントニオ猪木の異種格闘技戦(格闘技世界一決定戦)は、元柔道オリンピック金メダリストのウイリエム・ルスカ戦を皮切りに、あまりにも有名なモハメド・アリ戦(FILE No.177,382参照)「熊殺し」こと極真空手のウィリー・ウイリアムス戦など数多くの感動のドラマを生みました。
最初のルスカ戦の成功があったからこそ、その後の異種格闘技路線が成り立ったと言っても過言ではありませんが、その試合が行われたのがこのブログの更新日である2月6日、つまり今年は「格闘技世界一決定戦」40周年となるわけです。

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 ワールド・マーシャル
アーツヘビー級のベルト
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 アントニオ猪木は格闘技
世界一としてベルトの
防衛戦を続けた

78年12月18日、ニューヨークMSGのリングでWWF(当時はWWWF、現在のWWE)から猪木さんに新設された「ワールド・マーシャルアーツヘビー級選手権」(格闘技世界ヘビー級選手権)のベルトが贈呈されました。
「アリ戦を始め一連の格闘技戦を評価して」と言う大義名分で猪木さんが初代王者に選ばれたのですが、そもそもプロレス団体であるWWFが格闘技の王座を認定すると言う事自体が不思議な話、これは新間さんによる仕掛けでしょう。
猪木さんは早速その場で覆面レスラーのテキサス・レッドを相手にベルトを初防衛(対戦相手がレスラーなので格闘技戦にはカウントされず)、翌79年からの格闘技戦はこの王座を賭けたタイトル戦として開催されるようになりました。
今回は貴重なそのベルトのレプリカを入手しましたのでご紹介します。

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格闘技世界ヘビー級、ベルトのレプリカ

さて本稿は最初のルスカ戦から3年後、やはり2月6日に実現した「格闘技世界ヘビー級選手権試合」アントニオ猪木VSミスターX戦(王者の2度目の防衛戦)の特集です。
結論から先に書くとこの試合、一連の格闘技戦の中で最大の汚点と言われるほどの大失敗に終わってしまいました…。

ミスターXは格闘技戦に登場した猪木さんへの刺客の中で唯一のマスクマンで、パンフレットによると身長195cm、体重147kgの巨漢、全米プロ空手で46戦して26勝20敗、勝ちは全てKOで20敗は全て反則負けと言う異様な戦績の持ち主でした。

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 未知の強豪として期待
されたXだったが…

ルール無視のあまりにも荒っぽい試合ぶりでプロ空手協会から追放処分されていたと言う触れ込みでしたが、いざリングに上がったミスターX、見ると聞くとでは大違いの殆んど何もできない肥満のデクノボウ(失礼!)、いくら「ホウキを相手にしても戦える」アントニオ猪木とは言え相手があまりにもしょっぱい(業界用語で下手な事)とどうにもならなかったのが期待はずれの大凡戦で終わってしまった原因でした。
しかし何でそんな選手が猪木さんの相手として出て来たのでしょうか? 

元々この試合は「タイガーマスク」「あしたのジョー」「巨人の星」など様々なスポーツ劇画で有名な梶原一騎先生と新間さんの間で持ち上がった企画でした。
劇画作家らしく梶原先生はミステリアス・ムード漂うマスクマンの空手家を猪木への挑戦者として登場させようと新間さんに持ちかけたのです。
梶原先生がマスクマンの中身として予定していたのはアメリカの関係者から売り込みがあったジョー・ヘスと言うドイツ系の巨漢でした。
全米プロ空手の実力ナンバーワンと定評があり、かつてモハメド・アリのトレーニング・キャンプに乗り込んでアリに他流試合を申し込んで耳を蹴って負傷させたと言う武勇伝の持ち主で、送られて来たプロフィール写真を見ると四角い大型金庫のような頑丈な肉体にナチスを思わせる冷酷な面構え、梶原先生はマスクを被らせるのは勿体無いとさえ思ったそうです。
ヘス本人もアリと戦った猪木との試合に大乗り気で覆面を被る事も了承しているとの事、 試合が内定した段階で一大プロモーション作戦が始まりました。

この時期、梶原先生は少年マガジンで「格闘技世界一・四角いジャングル」と言う劇画を連載し人気を博していました。
この作品はプロレス、空手、キックなどの格闘技界の動きを現実と同時進行で描いたドキュメンタリーで、アントニオ猪木を初め多くの選手や関係者が実名で登場していましたが、梶原先生は劇中にミスターXを登場させたのです。
初登場はアメリカに遠征した藤波辰巳選手が試合を終えてシャワーを浴びている時の事でした。この日藤波選手にこっぴどくやられた外人選手が仲間を引き連れて仕返しの為控え室に乗り込んで来ましたが、藤波選手がシャワーから出てくると全員何者かにKOされていました。
その夜の試合場からの帰り道、藤波選手が車を走らせていると突如前方に現れた大きな人影がダッシュして車上を飛び越え、慌てて車を降りた藤波選手の前でマスク姿の大男がミスターXと名乗って猪木への挑戦を表明、片手で車の端を持ち上げるデモンストレーションを見せました。
今読んでも笑えるのですが神出鬼没のXは他にも、同じく猪木を標的にするウィリー・ウイリアムスやその師匠の極真の総帥・大山倍達を挑発したり、コインを指で捻じ曲げ手刀でビール瓶の先を飛ばしたりと作品内で大暴れ、そして絶妙のタイミングで現実の世界では2月6日、大阪府立体育会館でのアントニオ猪木VSミスターXが正式発表されたのです。
大阪では初の格闘技戦開催に加え、劇画から飛び出したミスターXが猪木に挑戦とあって話題は沸騰、チケットは爆発的な売れ行きを示しました。

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 試合ポスター、
大阪大会は空前の前人気

しかし土壇場になって舞台裏では悪夢のようなアクシデントが発生していました。
間に入ったエージェントのギャラのピンハネが原因でXの中身、ヘスの来日がキャンセルされてしまったのです!
空前の前人気の中、今更試合を中止にするわけにもいかず青ざめた新間さんと梶原先生、現地と必死になって折衝を続けるも埒があかず、苦肉の策で代役を立てる事にしました。新間さんのルートで急遽ロスで見つけて来た選手にマスクを被らせる事にしたのです。
梶原先生と新間さんの会話
「空手はできるの?」
「えーっと、恐ろしくパワーがあって空手とボクシングの二刀流と言う事なんですけど何しろ急場の事なんで…。」
普段は強気の新間さんも心細げ、偽物Xのダルマのような肥満体を見れば不安になるのもわかります。
こうして迎えた本番の日、会場は劇画でさんざんあおられたファンで記録的な大入り、その中を針のむしろの心境でリングサイドに陣取った梶原先生と新間さん、せめて偽物Xが思いもかけぬ喧嘩殺法で猪木を窮地に追い込むかもと淡い期待を持ったものの、帯を胸の位置で蝶結びしているのを見て「ダメだこりゃ。」の心境だったそうです(笑)。

この当時私は中学生でしたが少しプロレスから離れていた時期でしたので、残念ながらこの試合を観た記憶はありません。
我が社の主力仕入先である中川製袋化工さんでかつて大阪工場長を務めた柳田さんと言う方がいらっしゃって、この方が大のプロレス・格闘技好き、うちの親父と仲が良かった事もあり、私が大学生の頃家に遊びに行かせてもらいました。

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 調印式、Xの中身は偽物!

その時に聞いた話ですがこの試合を会場まで観戦に行った柳田さん、その頃キックボクシングを習っていた関係で会場に着いたらキックの関係者からミスターXのセコンドの数が足りないのでセコンドに着いてくれと要請されたそうです。怖いので断ったそうですが何と勿体無い!私ならそんな貴重なチャンス、絶対逃しませんよ!
毎週熱心に「四角いジャングル」を愛読していた柳田さん、劇画の中では後ろを向いたまま鋭い回し蹴りで新聞記者の咥え煙草を叩き落としたミスターXが、いざ試合となると全然足の上がらない蹴りを繰り出す姿を見て(なんだよ、これ!?)と絶句(笑)、大半の観客も同じ気持ちだったでしょう。

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 棒立ちのXの後頭部に
延髄斬りが炸裂

第1ラウンドこそお互い様子見でしたが、恐らくこの時点で猪木さんは相手の力量がわかったはずで長引かせるとかえってボロが出ると思ったのか、2ラウンドに入ると猛ラッシュ、アリキックで巨体をぐらつかせて延髄斬りを叩き込むとそのまま一気に卍固め、体勢が崩れたもののそのままグランド(寝技式)卍で絞め上げました。
これで決着か?と思われたもののここで2ラウンド終了のゴング、しかし誰の目にもこの時点で勝負あり、3ラウンド開始と同時に猪木さんは一本背負いからがっちりと腕ひしぎ逆十字固めで見事な勝利を収めました。

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 やはり猪木の
ワンサイドゲームに

映像ではよくわかりませんがXのあまりの不甲斐なさに客席の一部からはかなり厳しい野次やブーイングも出ていたようで、当時の一部マスコミも「ミスターX=偽物説」を報道していましたが、本物のヘスが予定通りに来ていたら凄い試合になっただろうと思うとかえすがえすも残念です。
それにしても猪木さんは相手の中身が入れ替わったのを知っていたのでしょうかか? この件に関して猪木さんが答えた記事を読んだ記憶はありませんが、猪木さんは選手であると同時に全責任を負う社長ですから常識的に考えて知らないわけはないとは思いますが…この辺りも機会があれば新間さんに確認したいものです。
さて、この試合をさんざんあおり続けた「四角いジャングル」がこの顛末をどう描くかが注目されましたが、劇中ではリングに上がったXは実は偽物だったと認め、本物は極真空手を挑発しすぎて逆鱗に触れ、猪木戦の直前にウィリー・ウイリアムスのストリートファイトでKOされたと説明していました。これで当時の読者は納得したのでしょうか(笑)?

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 いかにも昭和らしい
販促用のマッチ

写真は最近入手した珍品、この試合の非売品のマッチ(軸はありませんが)です。
販促用に作られて街頭で配布されたそうですが、それにしてもマッチと言うのが時代を感じさせますね〜。

アニメや劇画とのタイアップ企画は一歩間違うと茶番で終わってしまうリスクがあり、つくづく中身の人選が重要だと思い知らされたミスターX騒動でした。
しかし梶原&新間コンビはこの反省を生かし二年後、今度はタイガーマスク(初代)を誕生させて社会現象とも言える一大ブームを起こしたのですから流石転んでもタダでは起きません。

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