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社長の経営日誌

 FILE No.289 2012.9.1
「 幻のBI対決(2) 」

 登場人物 

 
栗山満男
  テレビ朝日「ワールドプロレスリング」のプロデューサー。
猪木の依頼で馬場−猪木戦の実現の為、馬場との交渉役を務める。
 
三浦甲子二
  テレビ朝日専務取締役。栗山氏の上司。BI対決の放映料として破格の1億円を決断した実力者。
 
ジャイアント馬場
  全日本プロレスの社長であり、エース・レスラー。
長年に渡り猪木からの対戦要望を黙殺し続けている。
 
アントニオ猪木
  新日本プロレスの社長であり、エース・レスラー。
打倒・馬場とマット界統一に執念を燃やす。
 

 前回までのあらすじ 

 

79年8月26日、夢のオールスター戦から二週間、猪木からBI対決の交渉を依頼された栗山氏は独占中継を条件に三浦専務から1億円の放映料の決済を受けた。
猪木の提案でこの1億を馬場のファイトマネーとする条件で馬場に直談判、そして馬場から正式な返事が来た…。

(前回からの続き)
栗山氏を呼び出した馬場の口からは実に意外な言葉が出ました。
「先日ご提示頂いた条件に対して色々考えたのでご返事します。
一億円というファイトマネーに対しては思っても見なかった高額な申し出にびっくりしました。ただ、このイベントを進める第一歩として、新日本プロレスからファイトマネーとして受け取る事自体に不安があります。
それに全額をファイトマネーとして受け取っても半分ぐらいは税金で持っていかれてしまう。
そこで栗山さん、ファイトマネーとして一千万円ぐらいは仕方ないが、残りの九千万については私がテレビ朝日から借り入れして、五〜十年で返済するという形が取れないか、これを至急調べて返事を頂きたい。
第二に今の私のお願いが通った場合、全ての話し合いにはテレビ朝日が同席立会いの下での事にして頂きたい。」
破格のオファーであっても馬場は受けないのではないかと半信半疑だった栗山氏も、まさかこんな話が出るとは想像もしていませんでした。
これは基本的には猪木との対戦を受諾するという事ではないですか!
栗山氏は興奮しながらも必死に冷静さを取り戻し馬場に聞きました。

「馬場さん、余計な事かもしれませんが借り入れするお金は何に使われるのですか?」
「今も言いましたように、一千万円は私がファイトマネーとして貰いますが、九千万円の一部はジャンボ鶴田ら若手選手への退職金に充てたい。
この話を受けると下手をすれば全日本プロレスは消滅しかねない。
日本テレビが私抜きで放送を続けてくれればいいがそうもいかないでしょう。
ならば新日本が全日本を吸収するという形になるとテレビ朝日さんにも責任が派生しかねません。大半の選手を猪木が引き受けてくれるという形になるのでしょうが、それでも選手に準備金として何らかの金は持たせてやりたいですからね。
残りは自分の好きなハワイ(馬場はハワイに別荘を保有していた)で銀行に預けたい。年利16%ぐらいで運用できるのでそんなふうに考えてみたのですよ。」

それから馬場はしみじみと本音を語りだしました。
「これまで猪木からは挑戦状や、多くの記者団の前でさんざんやられて来て、何度かはプロとして条件が合えばと思った事もありました。
しかし猪木の場合、いつもそれは自分の名前を売る為のパフォーマンスで私を利用してきただけだから嫌だったんですよ。
それに先日(8.26オールスター戦)はファンの前でマイクアピールをされてあの場では嫌とも言えずそれなりの格好はつけました。
それから二週間もしないうちに猪木は電話で『精一杯の条件をつけてテレビ朝日の栗山さんが行くから会ってくれ』と言う。
何度も言うが猪木だけの話なら聞くつもりはなかったんですよ。
しかし一億円の放映料を全額俺のファイトマネーとして出すという話しだし、そこまで言われれば自分の年齢、体力的にもそろそろ考えて良い時期かと思ったんです。
日本テレビとの契約更改が迫っているし、若手選手の事もある。
猪木はこの事についても以前にそれとなく匂わせて来ていたし、要するに猪木は全日本を吸収合併したいのでしょう。この問題もバックのテレビ朝日さんがしっかりしていてくださればそれもいいかもしれない。
そのうえ話はテレビ朝日さんがして俺の条件が通った場合の立会人として就いてくれればこれほど力強いものはないと思ったのですよ。」

馬場は猪木と最後に戦って引退の花道を飾り、その後の全日本プロレスを発展的に解散させる事までを具体的に考えていたのです。

栗山氏はこれなら間違いなくこの世紀の一戦は実現すると確信し、馬場がここまで内情を語ってくれた事に感動すら覚えました。
そして、日本テレビと全日本プロレスの契約更新時期が10月初旬なのでそれまでに話をまとめなくてはならない事を確認し、次回は経理部長クラスも同席して、馬場の出した条件に対して回答する事を約束して馬場と別れました。

報告を聞いた三浦専務の見解は
「放映料として一億円を新日本に支払う事に関しては役員会の了承は得た。
しかし、他局との契約に縛られているプロレスラーに九千万円もの大金を貸し出すとなると、常務会を通さなくてはならない。資金的には経理局の判断もいる。」
と言う事でした。
すぐに経理部長を交えての話し合いが始まり、三浦専務は常務会に提出する資料作りの作成と税法上の問題点の洗い出しの指示を出しました。

話が一段落したところで三浦専務は栗山氏にぽつりとつぶやきました。
「それにしても本当に猪木は信用が無いんだな。ウチが新日本に一億円払うのだから、馬場は新日本から九千万を借りれば何の問題もないのになあ…。
栗、猪木に三浦がもう少し信用される人間になれと言っていたと伝えておけ。」

いよいよ秒読み段階に入った夢のBI対決、栗山氏はこの日の夜、興奮してなかなか寝付けなかったそうです。
ところが、経理部での資料作りが進み、馬場への正式返答がもうすぐできるという時に思いもかけず事態は急変しました。
またも馬場の方から栗山氏に「これからすぐに会いたい。」と電話が入ったのです。
それは馬場から条件を出された日からわずか三日目の朝でした。
(何事か?)と不安に駆られた栗山氏は、密会場所のホテルへ急ぎました。
そして会うなり馬場は挨拶もそこそこにこう切り出したのです。
「栗山さん朝早くから申し訳ない。今日当たりにそちらからの返事があるかもしれないと思ったので、その前に連絡させてもらおうと思ってこんな早い時間にお呼びしたわけです。」
「馬場さん、何かありましたか? うちの経理の見解が遅いので少し心配していたのですが…。」

「実はあんな条件まで出しておいて申し訳ないのだが、今回の件は白紙にして欲しい。
理由は色々とあるのだが聞かないで欲しい。
高額な条件をご提示頂いて本当に恐縮しています。
三浦専務にもご挨拶しなければいけないのですが、目立つ事でもあるので栗山さんから伝えて欲しい。猪木の方にも伝えてもらえればと思います。」
「馬場さん、やはり日本テレビに話が洩れたのですか?」
「俺の方も大変な問題が起きてしまって。誠に申し訳ない。」
「馬場さん、今回の一億円はあの猪木―アリ戦に次ぐ金額でした。
それだけにこの話に理解を示して頂けたと思ったのですが…。」
「金額に不満とかそういう事ではないのです。どうかわかってもらいたい…。」
歯切れが悪く、理由は聞いてくれるなの一点張りの馬場に栗山氏も説得を諦めざるを得ませんでした。
こうして夢のBI対決はあと一歩のところで流れてしまったのです。

何故一度は合意したはずの馬場がわずか数日で話を白紙に戻したのかは、馬場が他界した今、永遠の謎ですが、日本テレビに情報が洩れて圧力、もしくはそれなりの条件提示があった事、自らが創設した全日本プロレスの解散に躊躇した事、そしてやはり信用できない相手とは試合が出来ないという気持ちが土壇場で芽生えたのではないかと栗山氏は推測しました。
ただ、あの時の猪木には突然セメントを仕掛けるような気持ちはなかったのではないかと栗山氏は述懐しています。
勿論マット界統一の野望はあったものの、馬場にきちんと引導を渡し引退の花道を飾らせてブッカーとして協力してもらいたかったのではないか、猪木の本音をじっくりと聞いたわけではないものの、当時栗山氏はそのように感じていたそうです。

この時、BI対決がテレビ朝日の独占中継で行われ、全日本プロレスが新日本プロレスに吸収合併する事になっていれば、現在のプロレス界の勢力分布図も大きく変わっていた事でしょう。
それにしても32年前の一億円と言えば、現在の貨幣価値に換算すればいくらになるのでしょうか。

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 こんなシーンが観たかった!

それだけのお金を用意しても実現しなかった二人の試合、これはもう運命としか言いようがありません。
馬場の16文キックや水平チョップと猪木の延髄斬りが交錯する…、昭和のファンが夢にまで見たシーンの再現は天国のリングでしか実現不可能となったのです。

参考文献
「プロレスを創った男たち」 栗山満男 著(ゼニスプランニング) 他
<過去の日記>
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